Oxygen

Oxygen

パブリッシャー
Sceptre
価格: ¥2,065

Oxygenのレビュー

Happiness and unhappiness are two dogs that follow each other around.
ロンドン郊外Brooklandsが主舞台のValentine家の女家長Aliceの死を主題とした物語とパリが主舞台の劇作家Laszlo Lazarの贖罪を扱った物語の二重構造。この二重空間が交互で語られるが小説の中では両者は実質的には繋がらない。(Valentine家の次男AlecがLaszloの戯曲『Oxygen』の英翻訳を引き受けてはいるが面識はない。)ただ小説外空間での両パートの結びつきは濃厚である。
Alice Valentineの末期肺癌による呼吸不全と酸素療法、その長男Larryのアルコール臭、その妻Kirstyの没頭する禅の呼吸法、娘Ellaの喘息発作用の吸入器、自閉症次男Alecの現実世界への息詰まり、そしてハンガリー人亡命作家Laszlo Lazarの胸に重くのしかかる過去の優柔不断。戯曲『Oxygen』では坑道で閉じ込められた人々が酸素を求めて喘ぐ。
この小説でMillerは幸福と不幸の表裏一体の構造を緻密に濃密に解析していく。そのため空気、酸素、呼吸というイメージを駆使しそれににより沸き立つ蒸気、滲み出る臭気が刺激となる。そしてどこでブレスしたらいいのかわからなくなりそうなセンテンス。それは閉所空間での窒息感に似た鬱状態と、酸素不足による意識変容に似た躁状態を読み手に意識させるかのようだ。

不幸な時にこの先の幸福を思って息をのむ瞬間が幸福なのか、
不幸な時に過去の幸福を振り返り息を吐くのが幸福なのか。

当然明確な答えは出るわけもなく最終的にはその形はどうであれ「一瞬の幸福の予感」のオープンエンドで終了する。
読了後には酸素を求めて深呼吸をしたくなる、そんな作品です。